椿の花
庭の椿の赤い花が、その美しい形のままポトポトと落ちる頃、母はこっそりそれを拾い集め、いくつも隠し持っていた。
我が子が幼かった頃、スミレやタンポポ、四葉のクローバーなど取ってきて、わたしにプレゼントしてくれた事を思い出す。
母はその花を拾って、かばんの中や引き出しの中にしまう。たまに、もう腐りかけていたり、アリが付いてたりするから、ちょっと迷惑ではある。
母が施設に数日泊まり、明日は帰宅なので、空気を入れ替えようかとカーテンを開けたら、その陰に五つの椿が茶色に干からびてしまっていた。
最近ではすっかり視力が落ちた母にとって、椿の花の美しさがどのように映ったのか、幼子のように心ときめいたのかと想像すると、愛おしくさえ思える。